洪水と水害をとらえなおす

大熊孝 著

日本人の伝統的な自然観に迫りつつ、
今日頻発する水害の実態と今後の治水のあり方について論じ、
ローカルな自然に根ざした自然観の再生と川との共生を展望する。
大熊河川工学集大成の書。
第74回毎日出版文化賞(自然科学部門)受賞

洪水と水害をとらえなおす

自然観の転換と川との共生
大熊孝 著
定価:本体2,700円+税
ISBNコード:9784540201394
発行:2020/5
発行:農文協プロダクション
発売:農山漁村文化協会(農文協)
判型/頁数:A5変 284ページ

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 「洪水と水害をとらえなおす」というタイトルを不思議に思った方もおられるかもしれません。しかし、「洪水」と「水害」は別のものです。「洪水」は自然現象であり、「水害」は人の営みにともなう社会現象です。本書は、その両者の関係性を中心に論じています。
 読みどころは3つあります。
 ひとつは2000年代に入って増大した大規模水害に関する詳細な解説と有効な手立てについての提言、また、洪水・水害との関係からみた日本人の自然観についての考察、そして、これからの社会の基盤となるべき「都市の自然観」「地域の自然観」創造の提唱です。
 川に関する初歩的な専門用語を「予備知識・川の専門用語」としてとりまとめていることも魅力のひとつです。
 自然災害が多発するなか、ぜひ手に取っていただきたい一冊です。

安達太良川での越流状況の判別(2019年11月2日)。この写真は2019年10月13日に台風19号豪雨で氾濫した福島県本宮市の安達太良川に約20日遅れて調査に行って撮影したものである。左手が上流で、右手が下流である。右岸の堤防天端のススキは倒れておらず、越流していないことが分かるが、堤防天端が泥で汚れており、水が越流しそうになったことが判断できる。対岸の左岸はススキなどの草が倒れており、越流したことがはっきりと確認できる。撮影:大熊孝

NPO新潟水辺の会による通船川での川掃除。水辺の会では通船川の動植物や水質、歴史の調査や公民館での学習会への協力を行なってきた。撮影:加藤功(船の操縦は大熊)

栗ノ木川桜まつりでの新潟水辺の会の支援による乗船体験の様子(2006年4月)。残念ながら現在は桜まつりも乗船体験も行なわれていない。撮影:大熊孝

公園化が自然復元に結びついた上堰潟。佐潟、瓢湖の2つのラムサール条約登録湿地がある越後平野では自然復元の兆しが見られる。写真提供:NPO新潟水辺の会

執筆者

大熊 孝(おおくま たかし)

新潟大学名誉教授・水の駅ビュー福島潟名誉館長・NPO法人新潟水辺の会顧問・日本自然保護協会参与・(公財)こしじ水と緑の会理事。
1942年台北生まれ、高松・千葉育ち、新潟市在住、1974年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了(工学博士)、新潟大学工学部助手、講師、助教授、教授を経て、 2008年新潟大学名誉教授、同年新潟日報文化賞受賞。専門は河川工学・土木史、自然と人の関係、川と人の関係を地域住民の立場を尊重しながら研究している。
著書に、『利根川治水の変遷と水害』(東京大学出版会、1981年)、『洪水と治水の河川史―水害の制圧から受容へ』(平凡社、1988年、文庫版2007年)、『川がつくった川、人がつくった川―川がよみがえるためには』(ポプラ社、1995年)、『技術にも自治がある―治水技術の伝統と近代』(農文協、2004年)、『社会的共通資本としての川』(東京大学出版会、2010年、編著)、『みんなの潟学』(新潟市、2018年、編著)などがある。

NPO法人新潟水辺の会のHP

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推薦の言葉

高橋 裕(東京大学名誉教授)

洪水と水害を論ずれば当然ながら立ち向かう大波―伝統と近代化の相克―それを見事に泳ぎ切った著者ならではの快著。確固たる歴史観と地域特性の理解なくしては到達できない。

 

内山 節(哲学者)

民衆の自然観を破壊していった近代国家の自然観。本書は、それを見据えながら川と人間の関係を問い直す大熊河川工学の集大成である。

目次

  •   はじめに
  • Ⅰ 私は川と自然をどう見てきたのか
  • 第1章 日本人の伝統的自然観・災害観とは
  • 第2章 近代化のなかで失われた伝統的自然観
  • 第3章 小出博の災害観と技術の三段階
  •  予備知識・川の専門用語
  • Ⅱ 水害の現在と治水のあり方
  • 第4章 近年の水害と現代治水の到達点
  •  1 2004年7月 新潟水害と福井水害
  •  2 2011年9月 台風12号による紀伊半島・相野谷川水害
  •  3 2015年9月 利根川水系鬼怒川の破堤
  •  4 2016年8月 岩手県小本川水害
  •  5 2018年7月 岡山県倉敷・小田川水害
  •  6 2019年10月 台風19号広域水害
  •  7 現代の治水計画における問題点
  •  8 ダムは水害を克服できたか?
  •  9 ダム計画の中止とダムの撤去工事について
  • 第5章 究極の治水体系は400年前にある――堤防の越流のさせ方で被害は変わる
  •  1 信玄堤は本当に信玄が築いたのか?
  •  2 筑後川右支川・城原川の〝野越〟
  •  3 加藤清正の「轡塘」
  •  4 桂離宮の水害防御策
  •  5 信濃川左支川・渋海川(長岡市)の事例
  •  6 近世における利根川治水体系
  • 第6章 今後の治水のあり方 ――越流しても破堤しにくい堤防に
  •  1 現代の治水問題
  •  2 治水問題の解決は越流しても破堤しにくい堤防にある
  •  3 堤防余裕高に食い込んで洪水を流す
  •  4 今後求められる堤防のあり方――スーパー堤防に関する補足を兼ねて
  • Ⅲ 新潟から考える川と自然の未来
  • 第7章 民衆の自然観の復活に向けて――自然への感性と知性をみがく
  •  1 ボランティア活動の限界――NPO法人新潟水辺の会の取組みから
  •  2 水辺との共生を次世代に継承するためには
  • 第8章 自然と共生する都市の復活について――新潟市の「ラムサール条約湿地都市認証」への期待
  •  1 都市における「自然との共生」の試み
  •  2 越後平野の開発の変遷
  •  3 越後平野の自然復元の兆し
  •  4 越後平野全域をラムサール条約〝湿地都市〟に――「都市の自然観」の創造に向けて
  •  5 「社会的共通資本」としての川・自然環境と「都市の自然観」
  •   あとがき
  •   参考文献

書評・反響

■ 読者カードから ■

----- 2020/9 -----

人間が自然を利用し尽くし、略奪してきた歴史を見直し、これからの人と自然の新しいつきあい方を示唆してくれる、大熊哲学の集大成とでもいうべき、傑出した本です。

(長野県 自由業 60代 男性)

 

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----- 2020/9 -----

今、まさに問われる洪水と水害への考察

亀山理事長からの推薦本『洪水と水害をとらえなおす』
(特集 これからの自然保護を拓く読書)

 著者は洪水と水害を見つめ続けてきた河川工学者であり、本書では近年の各地の水害を例にしながら、技術者の目で鋭く分析し解説しています。本書で言う洪水とは川の流量が平常時よりも増える増水のことであり、それがあふれて被害を及ぼすことを水害と呼んでいます。2019年10月の台風19号による千曲川の水害を例にして、この場所はもともと洪水が氾濫しやすい所であり、ここでは、堤防を乗り越えて越流しても堤防が壊れて破堤しなければ大きな氾濫は起こさずに浸水被害は免れたと指摘しています。
 ダムは水害を克服できたか、という命題で、同じく台風19号における河川の流量をもとにして八ッ場ダムの洪水調節効果を否定的に論じてもいます。
 「治水には限界があり、すべての洪水を河川の中に押し込めることは不可能である。洪水が堤防を越えて溢れることは免れられない。その際に越流場所が特定されて、そこを破堤させなければ被害は相当程度軽減できる」と、究極の治水体系を400年前の戦国にさかのぼり、近代化の中で失われた伝統的自然観の大切さに目が向けられています。
 自然保護は自然への慈しみを根底においています。著者は川という自然への慈しみに満ちた河川工学者であり、その心が溢れる快著です。自然保護の原典としておすすめします。

日本自然保護協会 会報『自然保護』2020年9-10月号より転載

 

----- 2020/9 -----

水害と日本人 ― 「民衆の自然観」に立脚した治水を。
河川工学の碩学が語る、制御から共生へのパラダイム転換。

月刊『潮』2020年10月号 特別企画「日本の難題―コロナから豪雨災害まで」

●近年の水害の増大は、日本人が古より育んできた「民衆の自然観」が失われてしまったことに大きな原因がある。●未来を見据え、ダムから、決壊しない堤防の造成や水害防備林の整備などによる治水への転換が求められる。●市民が地域の自然をよく知り、それぞれの場所で自然や地域のあり方をどうするのか議論を重ねることが重要。(「記事のポイント」)

水害の根底にある「思想」の喪失/自然を制御する近代文明の弊害/決壊しない堤防を造ることが重要/まず地域の自然をよく知ること(見出し)

 

----- 2020/7 -----

新刊紹介 洪水と水害をとらえなおす――自然観の転換と川との共生

 近年の水害において、相次いで報じられる高齢者の犠牲。自身の研究は役に立っていないのではないだろうか ―― こうした思いが著者を本書の執筆へと駆り立てた。50年間の長きにわたって川と向き合ってきた河川工学者による、その研究の集大成ともいうべき内容となっている。
 本書は3部から構成される。「Ⅰ 川と自然を私はどう見てきたのか」では、近代化以前の日本人が自然との共生のなかで兼ね備えていた「民衆の自然観」が、明治の近代化以降に浸透しはじめた「国家の自然観」に取って代わられていったことを、自身の子ども時代の記憶や様々な経験とも重ねつつ明らかにする。「Ⅱ 水害の現在と治水のあり方」では2004年新潟水害から2019年台風19号広域水害に至るまで各地の水害を検証するとともに、約400年前に時を遡り伝統的治水工法を紹介、今後の治水策への示唆を導き出す。そして「Ⅲ 新潟から考える川と自然の未来」では、地元新潟での「NPO法人新潟水辺の会」の活動から、「都市の自然観」の創造に向けた地域での実践のあり方を検討している。

公益財団法人 後藤・安田記念東京都市研究所 『都市問題』2020年7月号

 

----- 2020/6/28 -----

川との共生 見直す一助

『新潟日報』 評者 中井 祐(東大大学院教授)

 水害はなぜ起きるのか。川(水)がなければ起きることはない。川があってもそこに人がいなければ、洪水は起きても水害にはならない。川があって人がいて、人が生きるために川とかかわりあうからこそ、水害は起きる。だから水害は、人と川のかかわりあいかたの問題として、かんがえねばならない。それが、大熊孝の河川学の根底にあるモチーフである。
 わたしたちは自然のなかで、さまざまな他者とかかわりあって生きて(生かされて)いる。そして他者は、なにものであれ、自分の思い通りにはならない。都合がよいだけの存在では決してない。しかし川という他者を、人間にとって都合のよい存在につくりかえようと頑張ってきたのが近代治水であり、そのための道具が近代土木技術だった。国家の主導のもと、水害をなくすとともに恵みだけを効率的に得るために、わたしたちは川を、生きるためにかかわりあう相手ではなく、都合に応じて利用し保全し管理する操作対象とみなして改変してきた。大熊の言う「国家の自然観」である。
 その結果たしかに、水害の犠牲者は減り、かつて貧しかった国もそれなりにゆたかになった。しかし水害による人々の苦しみはなくならない。むしろ深刻化の兆しすらある。そして現代のわたしたちは、身近な自然とかかわって生きる充実を忘れてしまった。この矛盾に、大熊ほど、人生を通じて真正面から向き合い続け、正直に言葉にし、批判されながらも現場から逃げなかった河川工学者を、評者はほかに知らない。本書には、その大熊の河川哲学のエッセンスが凝縮されている。
 見渡せば、この国の自然はいまだうつくしい。人々が身近な川や山や海と日々かかわりあい、継がれてきた土地それぞれの風景も、繊細な佇まいを失いきってはいない。いま一度自然とのかかわりあいをとり戻し、国家の自然観をのりこえ、次代のわたしたちの自然観を手にする道への扉は、まだ開かれている。
 本書はその道のりの、得がたき侶伴となるにちがいない。

 

***** リンクはありません *****

・『週刊金曜日』2020年10月23日(1301)号 きんようぶんか
 洪水を水害にしないために 河川工学者の次世代へのメッセージ
 評者=まさの あつこ・ジャーナリスト

・『文藝春秋』2020年9月号 BUNSHUN BOOK CLUB
 土木を再定義しなおす 評者=中島岳志
 …重要なのは、「荒ぶる自然」との付き合い方を歴史から学ぶことである。…

・共同通信配信 評者=村木嵐・作家
 『北國新聞』6月25日 書評 「治水の平等性を問う」
 『北日本新聞』7月18日 読書 今週のイチ推し! 「変化した災害観」
 『福島民友』7月18日 読書 「ダムでの治水 脱却提案」
 『南日本新聞』7月19日 みなみの本棚 「平等性欠く治水に警鐘」
 … 他 見出しは「甚大な被害を避ける災害観」「治水の実例を科学で解明」など

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