食べることや農林漁業に関する「当たり前」を問い直し、
環境や文化、SDGsとの関わりを問いから深める。
多角的考察のための78のテーマ
キャリア教育にも役立つ45のコラムで
グローバルに、ローカルに。
世界的視座で足元にある問題を考える。
テーマで探求 世界の食・農林漁業・環境
地球の未来への羅針盤
池上甲一/斎藤博嗣 編著
定価:2,860円(税込)
ISBNコード:9784540221132
発行:2023/4
出版:農山漁村文化協会(農文協)
判型/頁数:B5 144ページ
地球温暖化がこのまま進んでいけば、異常気象、海面上昇、生態系、健康、食料、水資源などに、多大な影響を与えるといわれている。こうした環境問題は飢餓や貧困、格差や不平等といった社会的な問題にむすびつくことで、人々の生存を深刻に脅かす。「気候正義」という言葉に象徴されるように、「地球が病んでいる」という現状認識には、環境と社会が相互にからみあわせて、グローバリゼーションの功罪をとらえていく視点が重要である。紛争と難民、平和と農業といった、いま注目される問題も含めて、考える手掛かりを多角的に提供する。
池上 甲一(いけがみ こういち)
1952年長野県生まれ。京都大学、近畿大学で教育と研究に従事。現在、近畿大学農学部名誉教授。前国際農村社会学会会長。農業社会経済学の構築を目指し、農業・食料、水・環境、アグロエコロジー、フェアトレード、大規模農業投資などについて研究しながら、日本とアフリカの村を歩き回っている。著書に『農の福祉力』(単著、農文協、2013年)、「特集 現代社会と食の多面的機能」(責任編集、『季刊 農業と経済』88巻4号(2022年秋号)、英明企画編集)、『アフリカから農を問い直す』(京都大学学術出版会、2023年)などがある。
斎藤 博嗣(さいとう ひろつぐ)
1974年生まれ、東京育ち、2005年茨城県阿見町の農村に移住、新規就農。夫婦子ども家族4人で一反百姓「じねん道」斎藤ファミリー農園を営む。自給生活をしながら、アグロエコロジスト、農的ワークライフバランス研究家として地球市民皆農「すべての人に農を!」推進。立正大学経営学部卒業後、ベンチャー企業に5年勤務。T&T研究所(鴨川自然王国)研究員。小規模・家族農業ネットワーク・ジャパン(SFFNJ)呼びかけ人。家族農林漁業プラットフォーム・ジャパン(FFPJ)常務理事。編書に、『緑の哲学 農業革命論:自然農法 一反百姓のすすめ』(福岡正信 著、春秋社)などがある。Webサイト:一反百姓「じねん道」
テーマで探求 世界の食・農林漁業・環境
食と農のSDGs
関根佳恵 編著
定価:2,860円(税込)
ISBNコード:9784540221149
発行:2023/3
出版:農山漁村文化協会(農文協)
判型/頁数:B5 152ページ
「農業は自然に優しい産業」と考えていませんか?農家にお嫁さんが来ないってホントですか?カップラーメンの材料がどこから来ているか知っていますか?。本書では、政府や企業、個人によるSDGsの取り組みの実際、和食やカップラーメンから考える日本の食卓の姿、農業や飲食の現場での働き方など、食べることや農業に関する「当たり前」を、もう一度問い直します。サステナブルな社会の実現につながるアイデアを、第一線で活躍する研究者たちがデータも交えて丁寧に解説します。自ら問題を探究し、考えるための手掛かりとなる一冊です。
関根 佳恵(せきね かえ)
神奈川県生まれ。高知県育ち。京都大学大学院経済学研究科博士後期課程修了。博士(経済学)。立教大学講師、国連世界食料安全保障委員会(CFS)専門家、国連食糧農業機関(FAO)客員研究員、愛知学院大学経済学部准教授をへて、2022年より愛知学院大学経済学部教授。専門は農業経済学、農村社会学、農と食の政治経済学。家族農林漁業プラットフォーム・ジャパン常務理事。単著に『13歳からの食と農─家族農業が世界を変える─』(かもがわ出版、2020年)、『家族農業が世界を変える(全3巻)』(かもがわ出版、2021~22年、学校図書館出版賞受賞)、編著に『アグリビジネスと現代社会』(筑波書房、2021年)などがある。
テーマで探求 世界の食・農林漁業・環境
漁業・林業を知ると世界がわかる
二平章/佐藤宣子 編著
定価:2,860円(税込)
ISBNコード:9784540221156
発行:2023/4
出版:農山漁村文化協会(農文協)
判型/頁数:B5 164ページ
森里川海のつながりに支えられ、そして支えているのが漁業と林業。漁業のパートでは、回転寿司の魚はどこから来るの?といった親しみやすい話題から、なぜ日本の海は魚が豊かなの?という誰でも抱く疑問、資源管理のさまざまな仕組み、さらには海洋プラスチックごみの問題といった喫緊のテーマなどを取り上げる。また林業のパートでは、世界の森とわたしたちの暮らしの関係、木材だけでない森林からの恵み、防災とのつながり、森の豊かさと生物多様性の関係などに注目。いま求められる、持続的な森づくりとはどのようなものなのか。
二平 章(にひら あきら)
茨城大学人文社会科学部客員研究員、JCFU全国沿岸漁民連絡協議会事務局長、FFPJ農林漁業プラットフォームジャパン副代表。カツオの自然史・文化史研究とともに地域漁業と魚食文化の発展をめざし全国各地でシンポを企画開催。編著書に『レジームシフトと水産資源管理』(恒星社厚生閣、2005年)、『レジームシフト」(成山堂書店、2007年)、『漁業科学とレジームシフト』(東北大学出版会、2017年)などがある。
佐藤 宣子(さとう のりこ)
九州大学大学院農学研究院教授。林業経済学会会長、NPO法人九州森林ネットワーク理事長を務める。九州の農山村でフィールドワークをしながら、山村振興と持続的な森林管理のあり方、災害に強い林業経営をテーマに研究している。著書に『地域の未来・自伐林業で定住化を図る』(単著、全国林業改良普及協会、2020年)、『林業新時代―「自伐(じばつ)」がひらく農林家の未来』(共編著書、農文協、2014年)、『日本型森林直接支払いに向けて』(編著書、日本林業調査会、2010年)などがある。
■ 書評・ネットでの紹介など ■
----- 2023/12 -----
書評『テーマで探求 世界の食・農林漁業・環境』全3巻
世界と日本の環境や食・農林漁業を扱った全3巻の本シリーズ(以下,本書)は,編者によれば「中学・高校の探究学習にも役立てられることを念頭に」しているという。教科との関連については本書で触れていないが,評者には地理総合及び地理探究の教材としてさまざまな可能性を備えているように読めた。以下では,本書の概要とともに,どのような内容が地理教材としての可能性を有しているのか,具体例を挙げながら述べたい。
まず,本書の概要について述べる。第1巻は,地球の気候変動,生物多様性と農業,感染症,飢餓と肥満,都市化と食・農,紛争と難民,平和と食・農,未来への提言の8分野から構成される。第1巻では「地球は病んでいる。だが希望はある。」というメッセージを読者に送りたいという。
第2巻は,SDGs.家族農業,日本の食卓から,貿易と流通,土地と労働,テクノロジー,社会と政策の7分野から構成される。第2巻では,持続可能な食と農のあり方を読者に考えてもらいたいという。
第3巻は,食卓と流通,資源問題,内水面漁業,つくり育てる漁業,環境と生物多様性,多面的機能,漁業の未来,世界の林業と日本の暮らし,日本の森のあり方,持続的な森づくりと林業経営の10分野から構成される。第3巻では,漁業と林業の舞台である海と森を結び付けて捉えるとともに,それぞれが私たちの暮らしとどのように関わっているのかを読者に考えてもらいたいという。
本書は各巻とも,テーマとコラムから構成されており,第1巻が26テーマ10コラム,第2巻が25テーマ・17コラム,第3巻が27テーマ・18コラムからつくられている。読者は,関心を持ったテーマから読み始めることができ,また,必要なときに必要な箇所を読むという使い方もできる。4ページからなる各テーマは,教育的配慮のもと,次の8項目から構成される。すなわち1キークエスチョン,2テーマ編/本文,3探究に役立つ関連キーワード,4分野,5調べてみよう,6テーマ編/解説,7もっと学ぶための参考文献・資料,8コラムである。コラムには2ページを充て,執筆者がテーマに関わるエッセイなどを自由に展開している。どのテーマ,コラムにも,写真・絵・グラフ地図などのビジュアル資料が掲載されている点は,親しみやすいつくりで良い。本書の執筆者は,各テーマに関する専門の研究者のベ98名に及び,そのうち地理学関係者は,評者の気付いた範囲で執筆順に挙げると湯澤規子氏,長尾朋子氏,斎藤暖生氏の3名が加わっている。
第1巻のテーマ6「生物多様性を守る農林漁「業」を例に,テーマの1~8の中身を具体的に見てみよう。1で「田んぼの役割はお米をつくることだけでしょうか?」と,まず平易な問いかけをする。2本文は,ですます調の親しみやすい文体で,田んぼに生息する生きものの視点から田んぼという環境についてきわめてわかりやすく記述している。3では,減農薬,有機農業,自然農法,アグロエコロジー,環境水利権,生きもの農業,ラムサール条約の6語を挙げている。水準は高い。4は「生物多様性と農業」である。5では,「田んぼの周りにいる動物や植物を,季節ごとに調べてみよう」など3つのことを調べるよう示唆している。実行力があれば高校生でも十分に対応できる課題である。6では,専門的な内容の解説を記述し,関連するデータなども紹介しながら,である調で述べる。7では,専門書や関連するウェブサイトなどを挙げている。8は「生きものを守る農業とは?」というエッセイ風の論評を載せている。
次に,本書に備わる地理教材としての可能性について述べる。グローバリゼーションを扱う第1巻には,地理総合のB-(2)地球的課題と国際協力に関わる単元で活用できるものが数多く含まれていると思われる。その場合,同じ内容でも本書が地理総合とは異なる視点で扱っている点に有用性を見出せる。例えば,難民の扱いを比較すると,A社の地理総合教科書では国際的人口移動のひとつとして取り上げるが,本書では難民の食の問題に注目しており,難民への食糧支援のあり方や難民が自分たちの食文化を移動先でも大切にしていることなどを述べる。
農業を扱う第2巻と漁業・林業を扱う第3巻の内容は,地理探究で扱う世界及び日本の「農林水産業」に直接関わるものである。ただし,ここでも本書と地理探究とでは視点が異なる。例えば,A社の地理探究教科書では農業を主として食料生産のための産業として捉えるが,本書第2巻では農業に備わる多面的機能に注目するとともに,持続的農業・農村のあり方に強い関心を持っていることが読み取れる。また,農業・農村の永続性の向上に寄与しているのは,世界的に家族経営中心の小規模農家であることを述べ,小規模のほうが地域の環境に調和的であり,エネルギー使用効率も良いことを述べる。この視点は第3巻で扱う漁業に関しても一貫しており,世界の漁家の9割を占める小規模漁家が世界の生産量の6割を占めることを述べる。
本書は,以上述べてきたように,地理教材としての有用性が高いことから,高校の地理担当教員の手元に置かれ,教材研究や授業で活用されることを望みたい。それとともに,地域や学校の図書館などにも配置されて,生徒諸君が調べ学習に役立てくれることも望みたい。
本書には課題もあろう。地理教材として見たときに,地名と地図の扱いについて本書には改善の余地があると思われる。地名に関しては,一部に学校用地図帳での表記と一致していない例があった。例えば,第1巻コラム10「バングラデッシュ」は「バングラデシュ」が,第2巻コラム11「ボルネオ島」は「カリマンタン島(ボルネオ)」がそれぞれ適当であろう。地図に関しては,本書に掲載されている日本地図の大半にスケールの表示がなく,また,南西諸島を欠くものも多いという問題が見られた。大縮尺地図は第3巻テーマ10に1件あるが,スケールや時期の記載を欠くだけでなく,資料の出所も明示されておらず,改善が求められよう。こうした問題点は大勢に影響するものではなく,本書の価値を損なうものではないにしても,編集部に配慮してほしかった点である。
なお,本書には索引がないことが惜しまれる。全3巻を通しての総索引があれば,本書の事典的機能はいっそう高まるはずであり,この点も編集部に望みたい点である。
(岩本廣美)
日本地理教育学会 『新地理』第71巻3号
----- 2023/10 -----
『ほんとうのエコシステムってなに? ―漁業・林業を知ると世界がわかる』
評:志賀薫(森林総合研究所)
本書は『テーマで探求世界の食農林漁業環境』シリーズ(全3巻)の、グローバリゼーション、サステナビリティに続く3巻目で、エコシステムをテーマとし、漁業と林業を題材として取り上げている。本書の目的は、いかに地球環境、生態系を次世代に引き継ぎ、それを基盤とする漁業・林業を持続可能な産業としていくかを考えることである。中高生の探求学習に使用されることも念頭に書かれたとあり、当時の自分だったらどう読んだだろうと想像しながら拝読した。
寿司ネタや木造建築・家具といっ身近なものを入り口として、資源動態や管理、流通、政策、文化、世界との接点へと話題が広げられているので、漁業や林業に馴染みのない読者も各々なにかしら興味を持つトピックに出会えると思った。
本書で特に面白いと思ったのは、水産資源・漁業と森林資源・林業の対比から様々な考察を広げることができる点である。地球表層系の基本構造の数十年単位での転換(レジームシフト)によって、優先する魚種が中長期的に入れ替わる魚種交替について述べられていたが、森林資源にもこれに当たる変動があるのだろうか。自然に復元される量を捕獲したり伐採したりすることにより、資源を持続的に利用できるという点は共通しているものの、漁業では国際的な機関によって漁獲可能量が設定されている。一方、林業ではどうだろう、などである。このような疑問は、資源の特徴とそれに応じた資源管理を考えるよいきっかけになると思う。
また、漁業と林業とでトピックや記述の厚みが異なっているが、それも記述の厚い方の視点でもう一方の産業について考える“きっかけ”を与えてくれるだろうし、配されているキーワードや参考文献も探求活動へのハードルを下げ、スムーズにするだろう。
若い人達が地球環境への問を持ち、考え続ける“手がかり”として活用される、という筆者らの意図が上手くハマりそうな一冊である。
『森林科学』 No.90(2023年10月)>ブックス
J-STAGEのブックス記事
----- 2023/5/17 -----
『ほんとうのサステナビリティってなに? ―食と農のSDGs』
自著を語る 関根佳惠
食品価格の高騰、貧困・飢餓、気候変動、生物多様性喪失などが地球規模の課題となっています。日本では農村の過疎化や農家の高齢化も深刻です。こうした課題をどのように解決したらよいのでしょうか。
本書は、中高生が探究学習でこれらの課題について考えられるように編まれた3巻シリーズ『テーマで探究世界の食・農林漁業・環境』の第2巻です。「SDGs(持続可能な開発目標)」「家族農業」「日本の食卓から」などの七つのパートで構成され、クリティカル・シンキング(論理的思考)を培う問いかけと通説を覆す情報が多数盛り込まれています。
「耕さない農業が広がっている」「家族農業が世界を養っている」「大きな酪農より小さな酪農が効率的」「有機食材を導入しても給食の食材費は上がらない」など、これまでの学校教育では教えられていなかった最新情報を第一線の研究者や実践者が丁寧に解説しています。
サステナビリティ(持続可能性)という言葉が氾濫する現在、あらためて「これってほんとうにサステナブルなの?」と問い直し、探究するきっかけに本書がなればと願っております。(愛知学院大学教授)
『農業共済新聞』2023年5月2週号 すまいる面 より
***** リンクはありません *****
●『教育家庭新聞』2023年6月19日 BOOK REVIEW 「地理総合」や探究学習に
▼ほんとうのサステナビリティってなに?
●『日本農業新聞』2023年4月23日 あぜ道書店(読書欄)