テーマで探求 世界の食・農林漁業・環境(全3巻)

食べることや農林漁業に関する「当たり前」を問い直し、
環境や文化、SDGsとの関わりを問いから深める。
多角的考察のための78のテーマ
キャリア教育にも役立つ45のコラムで
グローバルに、ローカルに。
世界的視座で足元にある問題を考える。

テーマで探求 世界の食・農林漁業・環境

1 ほんとうのグローバリゼーションってなに?

地球の未来への羅針盤
池上甲一/斎藤博嗣 編著
定価:2,860円(税込)
ISBNコード:9784540221132
発行:2023/4
出版:農山漁村文化協会(農文協)
判型/頁数:B5 144ページ

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地球温暖化がこのまま進んでいけば、異常気象、海面上昇、生態系、健康、食料、水資源などに、多大な影響を与えるといわれている。こうした環境問題は飢餓や貧困、格差や不平等といった社会的な問題にむすびつくことで、人々の生存を深刻に脅かす。「気候正義」という言葉に象徴されるように、「地球が病んでいる」という現状認識には、環境と社会が相互にからみあわせて、グローバリゼーションの功罪をとらえていく視点が重要である。紛争と難民、平和と農業といった、いま注目される問題も含めて、考える手掛かりを多角的に提供する。

編著者

池上 甲一(いけがみ こういち)

1952年長野県生まれ。京都大学、近畿大学で教育と研究に従事。現在、近畿大学農学部名誉教授。前国際農村社会学会会長。農業社会経済学の構築を目指し、農業・食料、水・環境、アグロエコロジー、フェアトレード、大規模農業投資などについて研究しながら、日本とアフリカの村を歩き回っている。著書に『農の福祉力』(単著、農文協、2013年)、「特集 現代社会と食の多面的機能」(責任編集、『季刊 農業と経済』88巻4号(2022年秋号)、英明企画編集)、『アフリカから農を問い直す』(京都大学学術出版会、2023年)などがある。

 

斎藤 博嗣(さいとう ひろつぐ)

1974年生まれ、東京育ち、2005年茨城県阿見町の農村に移住、新規就農。夫婦子ども家族4人で一反百姓「じねん道」斎藤ファミリー農園を営む。自給生活をしながら、アグロエコロジスト、農的ワークライフバランス研究家として地球市民皆農「すべての人に農を!」推進。立正大学経営学部卒業後、ベンチャー企業に5年勤務。T&T研究所(鴨川自然王国)研究員。小規模・家族農業ネットワーク・ジャパン(SFFNJ)呼びかけ人。家族農林漁業プラットフォーム・ジャパン(FFPJ)常務理事。編書に、『緑の哲学 農業革命論:自然農法 一反百姓のすすめ』(福岡正信 著、春秋社)などがある。Webサイト:一反百姓「じねん道」

 

目次

  • はじめに—世界の農と食、そして「平和」は、私たちの身近な問題(池上甲一)
  • 本書に登場する主な略称
  • 【地球の気候変動】
  • Theme1 気候が変調をきたしている(江守正多)
  • Theme2 環境変動に農業はどう立ち向かうか(林 陽生)
  • Theme3 立ち上がるZ世代(古賀 瑞)
  • Column1 科学者は地球温暖化をどう解き明かしてきたのか—IPCCを中心に(上園昌武)
  • Column2 地球温暖化と世界の取り組み(浅岡美恵)
  • 【生物多様性と農業】
  • Theme4 「生物多様性」と「生物文化多様性」(鷲谷いづみ)
  • Theme5 生物多様性と外来生物の複雑な関係(北川忠生)
  • Theme6 生物多様性を守る農林漁業(池上甲一)
  • Theme7 農業が環境を「つくり」、守る(池上甲一)
  • Column3 生きものを守る農業とは—トウキョウダルマガエルと中干しの関係(守山拓弥)
  • 【感染症】
  • Theme8 農業と感染症の関係(山本太郎)
  • Theme9 新型コロナウイルス感染症が浮き彫りにした社会病理(藤原辰史)
  • Column4 人獣共通感染症と越境性家畜感染症(高田礼人)
  • 【飢餓と肥満】
  • Theme10 世界に広がる貧困・格差(池上甲一)
  • Theme11 飢餓と肥満は同根の問題(池上甲一)
  • Theme12 世界は貧困と飢餓にどう立ち向かってきたのか(藤掛洋子)
  • Theme13 「食堂」が与えてくれるもの—日本でも広がった子ども食堂とフード・バンク(湯澤規子)
  • 【都市化と食・農】
  • Theme14 都市化する世界(古沢広祐)
  • Theme15 日本の過疎・過密問題はどう進展してきたのか(山下良平)
  • 【紛争と難民】
  • Theme16 紛争が人権としての食を奪う—難民問題(佐藤 寛)
  • Theme17 難民・移民とエスニック食文化(安井大輔)
  • Theme18 人間の安全保障と紛争(高橋清貴)
  • Column5 世界は難民問題にどう向き合ってきたのか(岡野英之)
  • Column6 アフガニスタンの平和と「水」—中村 哲さんの実践と願い(橋本康範)
  • 【平和と食・農】
  • Theme19 農業で国際協力をする(池上甲一)
  • Theme20 食への権利と食料主権の実現に向けて(岡崎衆史)
  • Theme21 障害のある人と共に歩む農業(猪瀬浩平)
  • Theme22 エシカルな消費とフェアトレード(渡辺龍也)
  • Column7 2020年のノーべル賞はWFP国連世界食糧計画に(中井恒二郎)
  • Column8 広がり始めた農と福祉と医療をつなぐ取り組み(池上甲一)
  • 【未来への提言】
  • Theme23 小さな農業が次の時代を切り開く(松平尚也)
  • Theme24 人らしく生きる田園回帰(藤山 浩)
  • Theme25 食と農を学ぶ場を拡げる(澤登早苗)
  • Theme26 一人ひとりが農から「生きる力」を学ぶ(斎藤博嗣)
  • Column9 都市(まち)で農業をする(竹之下香代)
  • Column10 「ノンフォーマル教育」から学ぶ、食と農と私のつながり(田村梨花)
  • おわりに—パラダイムシフトに向けた深い学びと変える力を(池上甲一)

テーマで探求 世界の食・農林漁業・環境

2 ほんとうのサステナビリティってなに?

食と農のSDGs
関根佳恵 編著
定価:2,860円(税込)
ISBNコード:9784540221149
発行:2023/3
出版:農山漁村文化協会(農文協)
判型/頁数:B5 152ページ

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「農業は自然に優しい産業」と考えていませんか?農家にお嫁さんが来ないってホントですか?カップラーメンの材料がどこから来ているか知っていますか?。本書では、政府や企業、個人によるSDGsの取り組みの実際、和食やカップラーメンから考える日本の食卓の姿、農業や飲食の現場での働き方など、食べることや農業に関する「当たり前」を、もう一度問い直します。サステナブルな社会の実現につながるアイデアを、第一線で活躍する研究者たちがデータも交えて丁寧に解説します。自ら問題を探究し、考えるための手掛かりとなる一冊です。

編著者

関根 佳恵(せきね かえ)

神奈川県生まれ。高知県育ち。京都大学大学院経済学研究科博士後期課程修了。博士(経済学)。立教大学講師、国連世界食料安全保障委員会(CFS)専門家、国連食糧農業機関(FAO)客員研究員、愛知学院大学経済学部准教授をへて、2022年より愛知学院大学経済学部教授。専門は農業経済学、農村社会学、農と食の政治経済学。家族農林漁業プラットフォーム・ジャパン常務理事。単著に『13歳からの食と農─家族農業が世界を変える─』(かもがわ出版、2020年)、『家族農業が世界を変える(全3巻)』(かもがわ出版、2021~22年、学校図書館出版賞受賞)、編著に『アグリビジネスと現代社会』(筑波書房、2021年)などがある。

 

目次

  • はじめに―世界とつながっている私たちの食卓(関根佳恵)
  • 【SDGs】
  • Theme1 SDGsとはなにか?(関根佳恵)
  • Theme2 日本の農林漁業とSDGs(金子信博)
  • Theme3 日本の農林漁業とジェンダー(上野千鶴子)
  • Theme4 日本の農林漁業と若者(関根佳恵)
  • Theme5 便利な生活を見直してみるー脱プラスチックを通して(星野智子)
  • Column1 SDGs達成に向けた日本政府の取り組み(三輪敦子)
  • Column2 地方自治体がSDGsに向けてしていること(重藤さわ子)
  • Column3 パーム油産業と生物多様性の保全ー企業として「つくる責任」を果たすために(廣岡竜也)
  • Column4 農業協同組合がSDGsに向けてしていること(宇田篤弘)
  • Column5 ライフスタイルとしてのSDGs(小川美農里)
  • 【家族農業】
  • Theme6 SDGs達成に家族農業が必要なわけ(関根佳恵)
  • Theme7 家族農業が世界の人々を養っている(岡崎衆史)
  • Theme8 アグロエコロジーに向かう世界の農業政策(吉田太郎)
  • Column6 国際家族農業年と国連「家族農業の10年」(関根佳恵)
  • Column7 国連「農民の権利宣言」=農村生活者を丸ごと守る枠組み(岡崎衆史)
  • Column8 ESD(持続可能な開発のための教育)と農林水産業(玉 真之介)
  • Column9 小規模農業を支援する世界の国々(関根佳恵)
  • 【日本の食卓から】
  • Theme9 和食(寿司)から考える日本の食卓(岩佐和幸)
  • Theme10 カップラーメンから考える世界とのつながり(小池絢子)
  • Column10 認証の向こう側─パーム油学習で考えたいこと(八木亜紀子)
  • Column11 アブラヤシ・プランテーション開発の進むボルネオで(八木亜紀子)
  • Theme11 ペットボトルのお茶と喫茶文化(池上甲一)
  • Theme12 大豆から考える世界の農業(佐野聖香)
  • Theme13 大規模な酪農から小さな酪農へ(小林国之)
  • Column12 工場型畜産からアニマルウェルフェアへ(植木美希)
  • 【貿易と流通】
  • Theme14 農場から食卓へ─変わる農産物・食品の流通(矢野 泉)
  • Column13 世界の食料貿易体制(鈴木宣弘)
  • Column14 農と食を結び直す「産消提携」と「PGS」(久保田裕子)
  • 【土地と労働】
  • Theme15 農地を守るのは誰か?(楜澤能生)
  • Theme16 外食・中食産業で「働く」(岩佐和幸)
  • Theme17 農林漁業で「働く」(岩佐和幸)
  • 【テクノロジー】
  • Theme18 タネを採ることと種子を買うこと(田村典江)
  • Theme19 ロボットや植物工場が農業の危機を救う?(芦田裕介)
  • Theme20 フードテック─代替タンパク質は食料危機を回避するか?(関根佳恵)
  • Theme21 農薬・化学肥料・食品添加物の規制と安全性(木村ー黒田純子)
  • Column15 遺伝子組み換えとゲノム編集技術を考える(安田節子)
  • 【社会と政策】
  • Theme22 変わる日本の農業政策 ─ 農村の生業と暮らしを支える政策へ(図司直也)
  • Theme23 公共調達を変革する ─ 有機学校給食の取り組み(関根佳恵)
  • Theme24 「食べること」と「出すこと」─排泄と循環、食卓のその先へ(湯澤規子)
  • Theme25 エコロジーと公共政策(藤原辰史)
  • Column16 世界農業遺産と地理的表示が目指すもの(香坂 玲)
  • Column17 「みどりの食料システム戦略」は農業をどう変えるか(谷口吉光)
  • おわりに―農場と食卓をつなごう(関根佳恵)

テーマで探求 世界の食・農林漁業・環境

3 ほんとうのエコシステムってなに?

漁業・林業を知ると世界がわかる
二平章/佐藤宣子 編著
定価:2,860円(税込)
ISBNコード:9784540221156
発行:2023/4
出版:農山漁村文化協会(農文協)
判型/頁数:B5 164ページ

本を購入する(田舎の本屋さん)試し読み(PDF)

森里川海のつながりに支えられ、そして支えているのが漁業と林業。漁業のパートでは、回転寿司の魚はどこから来るの?といった親しみやすい話題から、なぜ日本の海は魚が豊かなの?という誰でも抱く疑問、資源管理のさまざまな仕組み、さらには海洋プラスチックごみの問題といった喫緊のテーマなどを取り上げる。また林業のパートでは、世界の森とわたしたちの暮らしの関係、木材だけでない森林からの恵み、防災とのつながり、森の豊かさと生物多様性の関係などに注目。いま求められる、持続的な森づくりとはどのようなものなのか。

編著者

二平 章(にひら あきら)

茨城大学人文社会科学部客員研究員、JCFU全国沿岸漁民連絡協議会事務局長、FFPJ農林漁業プラットフォームジャパン副代表。カツオの自然史・文化史研究とともに地域漁業と魚食文化の発展をめざし全国各地でシンポを企画開催。編著書に『レジームシフトと水産資源管理』(恒星社厚生閣、2005年)、『レジームシフト」(成山堂書店、2007年)、『漁業科学とレジームシフト』(東北大学出版会、2017年)などがある。

 

佐藤 宣子(さとう のりこ)

九州大学大学院農学研究院教授。林業経済学会会長、NPO法人九州森林ネットワーク理事長を務める。九州の農山村でフィールドワークをしながら、山村振興と持続的な森林管理のあり方、災害に強い林業経営をテーマに研究している。著書に『地域の未来・自伐林業で定住化を図る』(単著、全国林業改良普及協会、2020年)、『林業新時代―「自伐(じばつ)」がひらく農林家の未来』(共編著書、農文協、2014年)、『日本型森林直接支払いに向けて』(編著書、日本林業調査会、2010年)などがある。

 

目次

  • はじめに―海と森林に囲まれた国の未来に向けて(二平 章)
  • 【食卓と流通】
  • Theme1-1 魚食と健康(二平 章)
  • Column1-1 出前授業 魚には骨がある(大森良美)
  • Column1-2 魚と食育(根本悦子)
  • Theme1-2 海から食卓へ 変わる水産物の流通(川島 卓)
  • Theme1-3 水産物と国際関係(上田克之)
  • Column1-3 日本人とウナギ食(井田徹治)
  • 【資源問題】
  • Theme1-4 日本の海は水産資源の宝庫(二平 章)
  • Theme1-5 魚の資源変動(片山知史)
  • Theme1-6 水産資源の持続的利用と漁業管理(櫻本和美)
  • Column1-4 海の漁場利用のルール(二平 章)
  • Column1-5 漁民の共同の力で守るキンメ資源(二平 章)
  • 【内水面漁業】
  • Theme1-7 世界と日本における川や湖の漁業(杉山秀樹)
  • Column1-6 遺伝的特性を守りながら天然アユを増やす(高橋勇夫)
  • 【つくり・育てる漁業】
  • Theme1-8 日本の養殖漁業(長谷川健二)
  • Column1-7 増えるサーモン養殖(馬場 治)
  • Column1-8 地球を守る海藻養殖(星合愿一)
  • 【環境と生物多様性】
  • Theme1-9 サケを食べながら守り続ける(森田健太郎)
  • Theme1-10 ウナギをとおして社会のあり方を見直す(飯島 博)
  • Theme1-11 深刻な海洋プラスチックごみ問題(磯辺篤彦)
  • Column1-9 海洋プラスチックごみを追いかける(磯辺篤彦)
  • 【多面的機能】
  • Theme1-12 漁民が守る海の環境・国境・人のいのち(田口さつき)
  • 【漁業の未来】
  • Theme1-13 SDGsと持続可能な漁業(二平 章)
  • 【世界の林業と日本の暮らし】
  • Theme2-1 暮らしを支える林業(佐藤宣子)
  • Theme2-2 木材輸入の歴史と自給率(立花 敏)
  • Column2-1 世界で森林が減っているのはどこか(藤原敬大)
  • Theme2-3 木材だけではない森林からの恵み(齋藤暖生)
  • Theme2-4 バイオエネルギーと林業(泊みゆき)
  • Column2-2 新興する薪ビジネス(齋藤暖生)
  • 【日本の森のあり方】
  • Theme2-5 天然林と人工林(大久保達弘)
  • Column2-3 森林の放射能問題(大久保達弘)
  • Theme2-6 災害と森林との関係(五味高志)
  • Column2-4 シカ食害がもたらす災害(つる詳子)
  • Theme2-7 海岸林の役割(福田健二)
  • Column2-5 川沿いの樹林帯は何のため?(長尾朋子)
  • Theme2-8 森・里・海をつなぐ(山下 洋)
  • Theme2-9 さまざまな役割を果たす森林と木材生産(伊藤 哲)
  • 【持続的な森づくりと林業経営】
  • Theme2-10 林業の歴史(三木敦朗)
  • Theme2-11 林業経営と森林政策(佐藤宣子)
  • Column2-6 森林環境税による森づくりへの参加(石崎涼子)
  • Column2-7 森林認証制度と持続可能な林業(藤原敬大)
  • Theme2-12 災害の多い日本で求められる林業(吉村哲彦)
  • Theme2-13 林業と他の仕事を組み合わせる(興梠克久)
  • Theme2-14 自伐型林業の可能性(上垣喜寛)
  • Column2-8 里山保全に向けて(宮浦富保)
  • Column2-9 今、林業の仕事に若者の熱視線!(興梠克久)
  • おわりに―海と森をつなげて考える(佐藤宣子)

書評・反響

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----- 2023/12 -----

書評『テーマで探求 世界の食・農林漁業・環境』全3巻

 世界と日本の環境や食・農林漁業を扱った全3巻の本シリーズ(以下,本書)は,編者によれば「中学・高校の探究学習にも役立てられることを念頭に」しているという。教科との関連については本書で触れていないが,評者には地理総合及び地理探究の教材としてさまざまな可能性を備えているように読めた。以下では,本書の概要とともに,どのような内容が地理教材としての可能性を有しているのか,具体例を挙げながら述べたい。
 まず,本書の概要について述べる。第1巻は,地球の気候変動,生物多様性と農業,感染症,飢餓と肥満,都市化と食・農,紛争と難民,平和と食・農,未来への提言の8分野から構成される。第1巻では「地球は病んでいる。だが希望はある。」というメッセージを読者に送りたいという。
 第2巻は,SDGs.家族農業,日本の食卓から,貿易と流通,土地と労働,テクノロジー,社会と政策の7分野から構成される。第2巻では,持続可能な食と農のあり方を読者に考えてもらいたいという。
 第3巻は,食卓と流通,資源問題,内水面漁業,つくり育てる漁業,環境と生物多様性,多面的機能,漁業の未来,世界の林業と日本の暮らし,日本の森のあり方,持続的な森づくりと林業経営の10分野から構成される。第3巻では,漁業と林業の舞台である海と森を結び付けて捉えるとともに,それぞれが私たちの暮らしとどのように関わっているのかを読者に考えてもらいたいという。
 本書は各巻とも,テーマとコラムから構成されており,第1巻が26テーマ10コラム,第2巻が25テーマ・17コラム,第3巻が27テーマ・18コラムからつくられている。読者は,関心を持ったテーマから読み始めることができ,また,必要なときに必要な箇所を読むという使い方もできる。4ページからなる各テーマは,教育的配慮のもと,次の8項目から構成される。すなわち1キークエスチョン,2テーマ編/本文,3探究に役立つ関連キーワード,4分野,5調べてみよう,6テーマ編/解説,7もっと学ぶための参考文献・資料,8コラムである。コラムには2ページを充て,執筆者がテーマに関わるエッセイなどを自由に展開している。どのテーマ,コラムにも,写真・絵・グラフ地図などのビジュアル資料が掲載されている点は,親しみやすいつくりで良い。本書の執筆者は,各テーマに関する専門の研究者のベ98名に及び,そのうち地理学関係者は,評者の気付いた範囲で執筆順に挙げると湯澤規子氏,長尾朋子氏,斎藤暖生氏の3名が加わっている。
 第1巻のテーマ6「生物多様性を守る農林漁「業」を例に,テーマの1~8の中身を具体的に見てみよう。1で「田んぼの役割はお米をつくることだけでしょうか?」と,まず平易な問いかけをする。2本文は,ですます調の親しみやすい文体で,田んぼに生息する生きものの視点から田んぼという環境についてきわめてわかりやすく記述している。3では,減農薬,有機農業,自然農法,アグロエコロジー,環境水利権,生きもの農業,ラムサール条約の6語を挙げている。水準は高い。4は「生物多様性と農業」である。5では,「田んぼの周りにいる動物や植物を,季節ごとに調べてみよう」など3つのことを調べるよう示唆している。実行力があれば高校生でも十分に対応できる課題である。6では,専門的な内容の解説を記述し,関連するデータなども紹介しながら,である調で述べる。7では,専門書や関連するウェブサイトなどを挙げている。8は「生きものを守る農業とは?」というエッセイ風の論評を載せている。
 次に,本書に備わる地理教材としての可能性について述べる。グローバリゼーションを扱う第1巻には,地理総合のB-(2)地球的課題と国際協力に関わる単元で活用できるものが数多く含まれていると思われる。その場合,同じ内容でも本書が地理総合とは異なる視点で扱っている点に有用性を見出せる。例えば,難民の扱いを比較すると,A社の地理総合教科書では国際的人口移動のひとつとして取り上げるが,本書では難民の食の問題に注目しており,難民への食糧支援のあり方や難民が自分たちの食文化を移動先でも大切にしていることなどを述べる。
 農業を扱う第2巻と漁業・林業を扱う第3巻の内容は,地理探究で扱う世界及び日本の「農林水産業」に直接関わるものである。ただし,ここでも本書と地理探究とでは視点が異なる。例えば,A社の地理探究教科書では農業を主として食料生産のための産業として捉えるが,本書第2巻では農業に備わる多面的機能に注目するとともに,持続的農業・農村のあり方に強い関心を持っていることが読み取れる。また,農業・農村の永続性の向上に寄与しているのは,世界的に家族経営中心の小規模農家であることを述べ,小規模のほうが地域の環境に調和的であり,エネルギー使用効率も良いことを述べる。この視点は第3巻で扱う漁業に関しても一貫しており,世界の漁家の9割を占める小規模漁家が世界の生産量の6割を占めることを述べる。
 本書は,以上述べてきたように,地理教材としての有用性が高いことから,高校の地理担当教員の手元に置かれ,教材研究や授業で活用されることを望みたい。それとともに,地域や学校の図書館などにも配置されて,生徒諸君が調べ学習に役立てくれることも望みたい。
 本書には課題もあろう。地理教材として見たときに,地名と地図の扱いについて本書には改善の余地があると思われる。地名に関しては,一部に学校用地図帳での表記と一致していない例があった。例えば,第1巻コラム10「バングラデッシュ」は「バングラデシュ」が,第2巻コラム11「ボルネオ島」は「カリマンタン島(ボルネオ)」がそれぞれ適当であろう。地図に関しては,本書に掲載されている日本地図の大半にスケールの表示がなく,また,南西諸島を欠くものも多いという問題が見られた。大縮尺地図は第3巻テーマ10に1件あるが,スケールや時期の記載を欠くだけでなく,資料の出所も明示されておらず,改善が求められよう。こうした問題点は大勢に影響するものではなく,本書の価値を損なうものではないにしても,編集部に配慮してほしかった点である。  なお,本書には索引がないことが惜しまれる。全3巻を通しての総索引があれば,本書の事典的機能はいっそう高まるはずであり,この点も編集部に望みたい点である。

(岩本廣美)

日本地理教育学会 『新地理』第71巻3号

 

----- 2023/10 -----

『ほんとうのエコシステムってなに? ―漁業・林業を知ると世界がわかる』
評:志賀薫(森林総合研究所)

 本書は『テーマで探求世界の食農林漁業環境』シリーズ(全3巻)の、グローバリゼーション、サステナビリティに続く3巻目で、エコシステムをテーマとし、漁業と林業を題材として取り上げている。本書の目的は、いかに地球環境、生態系を次世代に引き継ぎ、それを基盤とする漁業・林業を持続可能な産業としていくかを考えることである。中高生の探求学習に使用されることも念頭に書かれたとあり、当時の自分だったらどう読んだだろうと想像しながら拝読した。
 寿司ネタや木造建築・家具といっ身近なものを入り口として、資源動態や管理、流通、政策、文化、世界との接点へと話題が広げられているので、漁業や林業に馴染みのない読者も各々なにかしら興味を持つトピックに出会えると思った。
 本書で特に面白いと思ったのは、水産資源・漁業と森林資源・林業の対比から様々な考察を広げることができる点である。地球表層系の基本構造の数十年単位での転換(レジームシフト)によって、優先する魚種が中長期的に入れ替わる魚種交替について述べられていたが、森林資源にもこれに当たる変動があるのだろうか。自然に復元される量を捕獲したり伐採したりすることにより、資源を持続的に利用できるという点は共通しているものの、漁業では国際的な機関によって漁獲可能量が設定されている。一方、林業ではどうだろう、などである。このような疑問は、資源の特徴とそれに応じた資源管理を考えるよいきっかけになると思う。
 また、漁業と林業とでトピックや記述の厚みが異なっているが、それも記述の厚い方の視点でもう一方の産業について考える“きっかけ”を与えてくれるだろうし、配されているキーワードや参考文献も探求活動へのハードルを下げ、スムーズにするだろう。
 若い人達が地球環境への問を持ち、考え続ける“手がかり”として活用される、という筆者らの意図が上手くハマりそうな一冊である。

『森林科学』 No.90(2023年10月)>ブックス
J-STAGEのブックス記事

 

----- 2023/5/17 -----

『ほんとうのサステナビリティってなに? ―食と農のSDGs』
自著を語る 関根佳惠

 食品価格の高騰、貧困・飢餓、気候変動、生物多様性喪失などが地球規模の課題となっています。日本では農村の過疎化や農家の高齢化も深刻です。こうした課題をどのように解決したらよいのでしょうか。
 本書は、中高生が探究学習でこれらの課題について考えられるように編まれた3巻シリーズ『テーマで探究世界の食・農林漁業・環境』の第2巻です。「SDGs(持続可能な開発目標)」「家族農業」「日本の食卓から」などの七つのパートで構成され、クリティカル・シンキング(論理的思考)を培う問いかけと通説を覆す情報が多数盛り込まれています。
 「耕さない農業が広がっている」「家族農業が世界を養っている」「大きな酪農より小さな酪農が効率的」「有機食材を導入しても給食の食材費は上がらない」など、これまでの学校教育では教えられていなかった最新情報を第一線の研究者や実践者が丁寧に解説しています。
 サステナビリティ(持続可能性)という言葉が氾濫する現在、あらためて「これってほんとうにサステナブルなの?」と問い直し、探究するきっかけに本書がなればと願っております。(愛知学院大学教授)

『農業共済新聞』2023年5月2週号 すまいる面 より

 

***** リンクはありません *****

●『教育家庭新聞』2023年6月19日 BOOK REVIEW 「地理総合」や探究学習に

▼ほんとうのサステナビリティってなに?

●『日本農業新聞』2023年4月23日 あぜ道書店(読書欄)

 

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