全訳 家蜂蓄養記

久世松菴 著/東繁彦 訳注・解説

江戸期最高峰の養蜂書の全訳に解説を付し、
古今の文献をもとに日本の養蜂の成立史を考察。

全訳 家蜂蓄養記

古典に学ぶニホンミツバチ養蜂
久世松菴 著/東繁彦 訳注・解説
定価:4,180円(税込)
ISBNコード:9784540231445
発行:2023/12
出版:農山漁村文化協会(農文協)
判型/頁数:A5 442ページ

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江戸期最高峰の養蜂書が現代によみがえる。漢文で書かれた『家蜂蓄養記』の全文を養蜂家が現代語訳し、江戸期の養蜂技術やミツバチの生態に即した詳細な解説を付し、現代へのヒントを探る。古今の文献や歴史史料、さらには生物学の成果も参照してわが国での養蜂の成立史もあわせて考察。秀吉の朝鮮出兵以降に朝鮮半島からもたらされ、その後各地に伝播した過程など、これまで謎が多かった「ニホンミツバチ」の起源も明らかにした労作。

著者

久世 松菴(くぜ しょうあん)

1738年、紀伊国有田郡湯浅村生まれ。紀伊藩奥御医師、本草家。『家蜂蓄養記』のほかに『橘柑譜』、『鯨譜』、『麻疹備考』を著す。1811年没。

訳注・解説

東 繁彦(あずま しげひこ)

1974年生まれ。一橋大学商学部卒業、神戸大学大学院法学研究科実務法律専攻修了。投資家、養蜂家。養蜂におけるケミカルフリーのダニ防除技術を確立し、兵庫県にて化学物質不使用の養蜂を実践している。養蜂史研究において、前著ではヘギイタダニの寄主転換が19世紀末に起きていたことを、本著ではニホンミツバチが文禄・慶長の役を契機に朝鮮半島からもたらされたことを明らかにした。ミツバチの耐病性向上、研究資源の払底解消にも取り組む。著訳書に『ミツバチのダニ防除』(農文協2022)、『関係的契約理論 イアン・マクニール撰集』(日本評論社2015、共訳)など。

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目次

  • 緒論『家蜂蓄養記』とは何か 
  • 第一部 『家蜂蓄養記』とその世界 
  • 第一章 序文
  • 第二章 女王蜂
  • 第三章 王台
  • 第四章 巣箱
  • 第五章 置き台
  • 第六章 置き場所
  • 第七章 闘争
  • 第八章 分蜂
  • 第九章 雄蜂
  • 第十章 巣虫
  • 第十一章 採蜜
  • 補論 『家蜂蓄養記』をめぐる古典籍とその関係
  • 第二部 日本養蜂史再考 
  • 第一章 熊野蜜
  • 第二章 文献からたどるニホンミツバチの起源
  • 第三章 『日本書紀』をめぐって
  • 第四章 問い直されるニホンミツバチの起源
  • 第三部 定本『家蜂蓄養記』―原文・書き下し文・語釈―
  • <付録>
  •  一、王禹[ショウ]『小畜集』「紀蜂」
  •  二、江戸期におけるミツバチの導入経路と飼養地
  •  三、関連年表
  • あとがきにかえて―蜂と漢文と私―
  • 参考文献一覧/索引
  • 目次全ページはこちらで見られます

書評・反響

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----- 2024/5/31 -----

書誌紹介 全訳 家蜂蓄養記-古典に学ぶニホンミツバチ養蜂
佐治 靖(元福島県立博物館)

 『家蜂蓄養記』は、寛政三 (一七九一)年、紀伊の医師久世松菴が蜜蜂の生態や養蜂に関し記した書物である。現在確認できる最古の養蜂書とされ、その存在は早くから知られながら漢文体の文章が難解であったため、その内容が一般に知られることはなかった。本書は「訳注・解説」者である東繁彦が、これを現代語訳し、さらに丁寧かつ詳細な訳注と解説を施した一冊である。その表紙の装丁からは、一般的な古文書や古典文学の翻刻本にみえる。しかし、目次、本文へと進めば、それとは異なり、松菴の著書というよりも、訳注・解説者である東繁彦の、『家蜂蓄養記』を起点に、従来の養蜂史に新たな一石を投じようとする意欲的な一冊であることがわかってくる。本書は、『家峰蓄養記』成立の背景と松菴の経歴の緒論に始まり、以下、第一部は『家峰蓄養記』の現代語訳と解説である。厖大な参考文献を渉猟し、読み込んでの記述は『家蜂蓄養記』の内容解説に留まらず、現代養蜂にも関連づけた内容である。第二部の「日本養蜂史再考」は、従来、概説的にしか扱われてこなかった近世以前の日本の養蜂史の書き換えを迫るような論考である。史料のなかに丹念に「養蜂」の記述を探り、それに依拠しながら、いくつかの新たな見解や独創的な説を提示している。ニホンミツバチの外来種説、秀吉の朝鮮出兵を契機とした養蜂の伝来、紀州熊野からの養蜂拡散・伝播など、それらは今後活発な議論を生起させる予感さえある。そして第三部は原文・書き下し文・語釈である。東ワールドに引き込まれ、過熱した脳を落ち着かせ、改めて「家蜂蓄養記』を読み直す、そうした役割を担う。
 確かに松菴の『家峰蓄養記』は、一見、蜜蜂の生態や養蜂に関する技術書であるかのように映る。しかし、同書を「漢文戯作」として読むと全く別の意味が見えてくる。漢文戯作とは、世相や体制を批評的に捉え、滑稽さや風刺をねらい漢文体で記述した文芸書で、江戸中期から明治にかけて流行った。この書が著わされた当時、松平定信の寛政の改革の時代にあって、松菴は幕政や藩政の乱れを批判的に捉え、儒教思想で君臣関係を重視する「義」に喩えられる蜂の世界に〈見立て〉て、立て直しの方策を著したと読むこともできる。表題の「家蜂」は単に「いえばち」ではない。人間社会における家宝・果報と語呂を合わせた掛け言葉であり、また「蓄養」は蓄財・財産の備えや方法の意を含む。実際の蜜蜂の貯蜜や、死滅させずに群を維持す養蜂技術と、幕政・藩政における財政再建、資産形成・備荒貯蓄政策を掛けた言葉なのである。この視点を加味し本書をひも解けば、蜂の生態、養蜂技術とその歴史が、当時、広く日本社会に認知、受容されていたことを理解する一冊といえるだろう。

日本民俗学会 『日本民俗学』第318号 より転載

 

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『日本農業新聞』2024年2月4日 「あぜ道書店」(読書欄)

 

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