千葉県印西市で野菜苗を扱う伊藤苗木の創業者である著者が、
中学3年から農家を継ぎ成人にいたるまでの日常を漫画で描いた日記。
ひとりの青年が農家の跡取りとなっていく過程が生き生きと描かれている。
農業・農村社会・農村風俗の生きた記録としても貴重。
14歳、農家を継ぐ
伊藤茂男 絵と文/塩野米松 解説
定価:1,760円(税込)
ISBNコード:9784540231919
発行:2024/5
出版:農山漁村文化協会(農文協)
判型/頁数:A5 300ページ
当時、運搬用として家で飼っていた赤牛。牛糞と敷きわらを混ぜて発酵させ厩肥を作っていた
東京・神田市場へのスイカ出荷の様子(昭和36年)。草深地区では戦後、陸軍の草深飛行場跡地で引き揚げ者による開拓事業が進められた。当初は不毛に悩まされた土壌であったものの、やがて野菜栽培が中心となり、その筆頭がスイカ栽培であった
家に耕耘機がやってきて妹と記念撮影。農業は手作業によるものが多かったが、だんだんと新しい機械が入ってきた時代(昭和37年)
〆粕と脱脂ぬかを混ぜてスイカの肥料作り。重いものを運ぶ時は牛が活躍した(昭和33年2月16日)
スイカや麦仕事に勤しむ夏。仕事が休みの日には、長浦へ潮干狩りに(昭和34年7月)
父が亡くなった後は、一家の大黒柱となり家族を支えるために農家を継いだ。母や姉妹とともに働く毎日。踏み込み温床でメロンなどの野菜苗を育てた(昭和35年3月)
絵と文:伊藤 茂男(いとう しげお)
昭和17(1942)年生まれ。
有限会社伊藤苗木前代表取締役。
江戸時代から続く千葉県印旛郡船穂村(現・印西市草深地区)の農家に生まれる。絵を描くのがもともと好きだったことや中学校の担任のアドバイスがきっかけで、日記を漫画で書き始める。中学校卒業後、家業の農業を手伝いながら漫画日記を書き続けていたが、18歳の時に父が亡くなり、大黒柱として家を支えるために漫画を描くことをやめ、農業に専念するようになる。
稲作、野菜作を中心に農業を行う一方で、ハウスでの苗木育成、販売等も行い、結婚の翌年の昭和44(1969)年に伊藤苗木を設立。
徐々に作目・取扱い品種を増やし、現在はハウス30棟を構え、30作目200品種以上の苗および野菜を取り扱う。
平成24(2012)年に伊藤苗木の代表取締役を娘夫婦に引き継ぎ、令和5(2023)年農業を引退。現在は趣味の絵を描きながら、日々を過ごす。
解説:塩野 米松(しおの よねまつ)
昭和22(1947)年、秋田県角館町(現・仙北市)生まれ。
全国各地を旅して、失われゆく伝統文化・技術の記録に精力的に取り組む。著書『少年時代』(理論社)ほか多数。
漫画家になりたかった「僕」の農業日記|本の紹介
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----- 2024/8/7 -----
自著を語る 『僕の漫画農業日記 昭和31~36年』 伊藤茂男
この本は、私が昭和30年代の中学時代から農家を継いで仕事を行っていた18歳までに書いた1冊の日記をまとめたものです。中学校生活や農家の仕事を、好きな漫画で気の向くままにつづりました。
中学卒業後は家の仕事を手伝っていましたが、当時は牛が仕事の相棒で、農作業はほとんど人の手によるもの。山で拾い集めた落ち葉の発酵熱で踏み込み温床を作り、既肥(きゅうひ)や下肥を使う一方で化学肥料や農薬も活用していました。
18歳の時に父が亡くなり、家族を養うため漫画は諦めました。死に物狂いで働く毎日、開墾して苗を作り試行錯誤の連続。でも中学3年の担任の先生がくれた「働かねばだめです。人間は働くために生まれてきたのですから」という言葉があったから、今があるのです。
私は今82歳ですが、この本を読んだ同世代の方は当時の空気や出来事を思い出す本だと言ってくれます。若い方にも「昔の農村の暮らしや仕事ってこんな感じだったのか」と読んでいただけたら幸いです。(有限会社伊藤苗木前代表取締役)
『農業共済新聞』より転載
----- 2024/7 -----
自著自薦 『僕の漫画農業日記 昭和31~36年』
編集担当:(株)農文協プロダクション 高井美穂
千葉県印西市草深(そうふけ)地区に、30棟余のハウスを構え多種多様な野菜苗と野菜を販売している(有)伊藤苗木があります。その創業者である伊藤茂男さんが青年時代を過ごした昭和30年代の5年間に書きためた11冊の日記帳をまとめたものが本書となります。
代々続く農家に生まれた伊藤さんは、小学生の頃から絵を描くことが好きでした。中学3年の担任の先生の勧めで日記をつけ始め、学校生活や農家の日常を漫画で描くようになります。
「日本一の漫画家になりたい」と夢見ながら、中学卒業後は父のもとで農業に励みます。運搬用として牛を使い、集めた落ち葉の発酵熱を利用した踏み込み温床をつくり、稲わらで編んだ鉢で苗を育てました。また厩肥や下肥を使う一方、化学肥料や農薬も積極的に活用していました。稲作は保温折衷苗代で、農薬散布や稲刈りは親戚や近隣の人々との共同作業。わら仕事や恵比寿講などの年中行事も大切にされていた時代です。
伊藤さんが18歳の時に父を亡くし、家族を支えるため、地域の大人たちのなかで一心不乱に働く毎日。父の早すぎる死により、漫画を諦め農家の跡取りとなっていく葛藤ややるせなさが胸に迫ります。 日記の舞台は高度経済成長期、昔ながらの営みが残りながら、次々に入ってくる新しいものと混在する激動の時代だったといえます。本書は、農村に暮らすひとりの青年の個人的な日記でありながら、当時を記録する貴重な資料でもあります。同世代の方にとっては懐かしく、若い世代には新鮮に映り興味を引く内容となっています。本を開いて、あの頃の伊藤青年に会いに行ってみませんか。
『月刊NOSAI』2024年8月号 より転載
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躍動する戦後日本農業史―土と人のライフヒストリー
評=湯澤規子(歴史地理学者・法政大学教授)
『季刊地域』58号(2024夏) > ゆるくらジャーナル「本 Book」
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●『日本農業新聞』2025年3月31日 首都圏 「スポットライト」千葉県印西市 伊藤茂男さん
書きとめた農作業日記 念願の書籍に 涙が出るほど歓喜
●『サンデー毎日』2024年8月7日号 梨木香歩「新 炉辺の風おと」(連載143)
「もっと豊かに 二」のタイトルで全編本書についてのエッセイ
●『日本農業新聞』2024年7月21日 あぜ道書店(読書欄)